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2008年12月

2008年12月30日 (火)

『群衆』 キャプラが身に滲みる

 バブルの時代、いったい誰が20年後に、アメリカの大恐慌時代のような社会になると、想像できただろう。チャプリン映画(とくに『街の灯』『モダンタイムス』『殺人狂時代』)やウィリアム・ウェルマン『人生の乞食』、『北国の帝王』などの<ふつうの市民が簡単に路頭に迷ってしまう時代>が、日本に訪れるとは。
 労働派遣法が憲法違反であることは当然で、政治も悪いが最悪はマスコミだ。利益のため人間を使い捨てにするメーカーが諸悪の根源であることは自明なのに、トップに責任追求のインタビューを行わない。高い広告費を失いたくないので、新聞テレビは巨悪を逃がす。<Drive Your Dreams> とは、悪い冗談だ。キャノンは、世を救う<観音様>の意味であるのを忘れていないか。
 また、毎日流れるホームレスや派遣切りのニュース、取材しているキャメラマンやディレクター自身が多くの場合派遣社員、もの凄い薄給で働かされているのも事実だ。赤字覚悟の制作費が続き、自殺した制作会社の社長がいる。

 1941年フランク・キャプラ監督の『群衆』(原題:Meet John Doe)。<John Doe>は無名の意味、身元不明の死体を呼んだりする。<John Doe来る!>の意か。
 経営不振になった新聞社が政界の黒幕に乗っ取られ、ベテラン社員たちが首になる。若造が、親のような社員たちに馘首を告げるジェスチャーは、今の時代笑えない。同じく首になった女性記者(バーバラ・スタンウィック)は、腹いせに記事をねつ造する。John Doeを名乗る男が、金がすべての世の中に抗議するため、クリスマスイブの夜、市庁舎から身を投げるという記事だ。
 ところが、この記事、予想外の反響を呼び州知事や市長を慌てさせる。バーバラは、記事を連載にし、John Doeを誰かに演じさせれば、新聞の売り上げが伸びると画策、マイナーリーグを首になりホームレス(この頃はホーボーね)に落ちぶれたゲーリー・クーパーをJohn Doeにでっち上げる。
 やがて、庶民の連帯を呼びかけるJohn Doeの訴えは、全米市民に熱狂的に迎えられるが・・・。

 マスコミを金の力で支配する政界の黒幕は、時代のヒーローが出てくれば票田獲得のため便乗し、不利になれば濡れ衣を着せ、大衆を煽動しヒーローを叩く。企業、政治家、マスコミの関係が恐ろしいほど、今の日本と変わらない。
 一方庶民の側は、「隣人を大切にしよう」と云うJohn Doeの訴えをまともに受け止め、生活は苦しくとも地域社会の人々がお互い思いやりを持てば、苦境を乗り切れることに気づいてくる。この当たりは山本周五郎『ちゃん』『かあちゃん』みたいである。

 本作は『オペラハット』「スミス都へ行く』『素晴しき哉、人生!』のキャプラ作品と同じく、資本主義がファシズムに行き着いた社会の実相を見事に描いている。60年以上前の映画だが大変面白い、でも作品の完成度は二の次。描かれている社会が2008年年末の日本そのまま、現在こそ必見の名作だと思う。

 「民衆を見くびるなよ(原語はわかりません)」と、政界の大物に投げつけるラストの市民の捨て台詞、当時の観客は喝采したんだろうなあ。

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