『リトル・ミス・サンシャイン』 ままならない人生でも
国は違えど6人の個性がそれぞれ<今>を感じさせる本作、大いに満足。
リメイクやCG頼みやらが多い中、やはり<腐ってもアメリカ映画>である。
小太りで眼鏡なのにミスコンに憧れている7歳の少女、アビゲイル・ブレスリン。子供の身体的なコンプレックスを扱うことも凄いが、ちゃんと説得力ある演じ方ができる子役がいることに驚いた。
自己啓発本『成功への9つのステッププログラム』を出版し、ひと山当てようとしている父親、グレッグ・キニア。「世の中には勝者と敗者しかいない」「強い思いを抱けば必ず成功する」という固定観念の俗物。唸りましたね、この人物の造形には。サイトでもこの手の怪しげなイベント屋の多いこと!
ニーチェを愛読、超人思想からか空軍パイロットになるため、筋トレを欠かさず家族とも筆談ですます、9ヶ月引きこもっている15歳の長男、ポール・ダノ。
ヘロインで老人ホームを追い出された祖父、アラン・アーキン。「未成年だと罪にならん」、15歳の孫に同年代とのセックスを勧める過激な老人。「ナチと闘った俺が若い頃犯した失敗をするな!」 シャイ過ぎたためか、愛妻家だったのか女遊びは無縁の過去があり、老人になってセックスに開眼したらしい。「老人ホームじゃ、ペニスが乾くヒマがなかった」も強烈。
プルースト研究の第一人者で、若い恋人をライバルにさらわれたゲイ。自殺未遂したあげく学校を首になった伯父に、むっつりしたヒゲ面のスティーブ・カレル。自殺の顛末を7歳の姪に、ちゃんと伝える生真面目な性格で、金と名誉の俗な夢ばかり追いかける義理の兄とは正反対の価値観の持ち主。
タバコが止められず、夕食とデザートをファーストフードと紙皿で済ます、料理ができない母、トニ・コレット。家族の中で一番クセがない役だが、自然な芝居の上手いこと。強烈な個性たちが奇妙な行動をとるなかで、トニのリアリティがあるからこそ、ドラマが自然に受け入れられる。
伯父がきた夕食の場で、キャラクターをすべて紹介するシナリオ。うまい!
お話はアビゲイルが出場するミスコンに、ポンコツ車で向かうロードムービー風になっているが、各人の夢がひとつづつ破れていくことでドラマが進む。
まず、キニアの出版が失敗する。経済的に不安定な家計を支えてきた妻は、イライラを爆発させる。祖父は車の後部から運転席まで近づき、息子キニアの肩を抱いて「結果はどうあれ、チャンスに全力で挑戦したことを誇りに思う。頭が下がる、立派だ」。キテレツな祖父が、思いやりのある人だと分かる。この優しさが息子にも遺伝しているらしい。他の連中も変だが、どことなく品のある雰囲気をただよわせている。祖父が亡くなり、母の涙に長男は「ハグしろ」と妹にメモを見せる。
「品行が悪くてもいいけど、品性が悪くてはダメだ」と、小津安二郎がどこかで書いていたが、そんな感じ。
祖父は、孫のアビゲイルに「負け犬とは負けるのが怖くて挑戦しない奴だ」と慰める。アーキンが、少ない出番にもかかわらず、オスカーを獲得したのはこの儲け役に負うところが大きい。さらっと演じているのに、実にうまい。
祖父の死で、ミスコン参加が絶望的になったとき、キニアは敢然と娘の希望を叶える旅を続ける。それまで、なんだか頼りなかった一家の長が、がぜんパワーを発揮し始める。怪しげな自己啓発本の出版も、経済的に豊かになって家族を幸せにすることが目的なのだ。出版は失敗したが、家族の幸せには、まだまだ方法がある。奇妙な人物の魅力的な側面が浮かび上がる。そして、全員が力を結集しだす。
色弱だと分かりパニックを起こした長男が、妹のハグだけで我に返り「わがまま言ってゴメンナサイ」。土手に家族を並べ、前景に長男と妹がいるショットも素晴しい。
波止場で伯父と甥が語り合うシーンは、シナリオライターの知性が光る。伯父のカレルが「プルーストは完全な敗者。ゲイで、仕事もせず20年でたった1作書いただけで報われない恋に生きたが、今じゃシェークスピア以来の偉大な作家。『苦しんだ日々が自分を作った。幸せな時間は自分を成長させなかった』とプルースト。悩みが尽きない高校生活は黄金時代。悩めるお前はバカじゃない」
冴えなかったゲイが、爽やかな潮風にヒゲをなびかせ、頼もしい哲学者の顔になっている。「空軍パイロットなんか、くそくらえ。自分の力で飛んでやる」、高校生の甥も自分と勇気を取り戻す。
クライマックスは、ミスコンで小太りの7歳の少女が、どうなるか。家族がひとつになるアイディアが、これまで観たこともないユニークなシーンとなって、観客を納得させる。
失恋したり、持って生まれた才能が期待したほどでなかったり、人から裏切られたり、思った通りに行かない人生を誰しも生きている。負け犬と思われても、一つの物差しで判断しただけであって、一人の人間には、多くの可能性があり、意外に本人は気づいていない。観終わって、果たして自分や周囲の人々は?、とも思わせてしまう。
優れた人間観察がないと良質のエンターテインメントになりえない、小品ながらそう痛感した名作です。
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