シネテリエで20数年ぶりにスクリーンで観た。フィルム映写ではなく電子デジタル再生だからか、暗部が完全に再現できてないので色に深みがないし、小さなキャパのため個人ミニシアターで鑑賞したよう。喜びも半分くらい。
DVD発売キャンペーンのための上映らしいが、本来の美しさを再現するのに欠かせないフィルム予算をケチった上、ロードショー料金を取るのは観客に対して失礼。
デジタルリマスターというのは、パソコンにフィルムを取り込んで(テレシネという作業)修正したもので、本来ならフィルムに焼き直さないと(キネコという作業)いけない。だから、DVDかなにかを使った今回の上映は本当の色彩ではないのですよ。「デジタルリマスター版だからキレイね」なんて思わないように。騙されているのですよ。
67年にロードショー公開されたのは、有楽座で70㎜プリント。有楽座といっても、マリオンの前のニュートーキョービルにある今の有楽座ではなく、座席数1500人、日比谷にあった旧有楽座。映画用の色彩設計で塗装したロケセットと衣装の鮮やかさ、シネスコの隅々まで展開する群舞、ミシェル・ルグランの傑作スコアとジャック・ドミー(いつからドゥミーなんて変な表記になったんだろう)の気恥ずかしくなるようなロマンチックで粋な歌詞のこの傑作ミュージカル。『ウエストサイド物語』『サウンド・オブ・ミュージック』のように、大きな劇場で初めて真価を発揮できるミュージカル映画である。博多座の座席数が1300だから、この映画の持つ迫力を理解できるでしょう。
てなことに憤慨していたら、KBCシネマで『アラビアのロレンス』が2500円だそうな。劇場か、配給会社は、まったく客をなんだと思っているのだろう。この傑作は撮影も70㎜で、70㎜プリントを上映できる1000席規模の劇場ならまだわかる。35㎜であの狭さだと、本来の迫力は伝わらない。大きな劇場(せめてキャナルの一番大きな400席)なら冬場でもノドが渇き、休憩時間にコーラが飛ぶように売れる実績があるのだ。不況だと商売がセコくなるのか。デビッド・リーンと先日あちらへ旅立ったモーリス・ジャールは怒っているんだろうな。
閑話休題。
30年くらい前名画座で初めて観たのは英語版。直後にサントラを買ったらフランス語で、歌詞が妙に間の抜けた感じだった。その後オリジナルを観て、良さが初めて理解できた。
70〜80年年代、名画座にもちょくちょくかかっていた。カンヌ映画祭グランプリ『シェルブールの雨傘』の名声に隠れていたが、観た知合いたちは、こちらの方を好きになってしまう。思わず口ずさみたくなるような佳曲ぞろいなのと、すれ違いドラマにテンポよく乗せられて酔わされてしまったからだ。
ミュージカルの演出で面白いと思ったのが、惹かれ合う恋人同士が同じ旋律で、異なる歌詞を歌うこと。ペランとドヌーブ、ダリューとミシェル・ピコリ。ドラマを素晴しく効果的にした抜群のアイディア。
この作品の魅力を一言でいうと、その大らかさ。細かいことを気にしない、懐の深さ、融通無碍というか。
ペランが描いたドヌーブそっくりの油絵を観ても、ドヌーブを知っているカフェの常連は誰だか思い出せないのは何故だろう。
ジーン・ケリーは楽譜を拾ってすぐ女性とぶつかり、翌日にはドヌーブと、ぶつかってばかり。
音楽学校を卒業したはずのミシェル・ピコリは金曜日に聞いたドルレアックの曲を、翌日ジーン・ケリーのピアノで聞かされて、何故忘れているのだろう。
(『サウンンド・オブ・ミュージック』のマリアは、たった一晩でカーテンから7人の子供の服を作ってしまう。)
チャキリスが回転するホンダのオートバイに乗っているだけのダンスもどきやバスケットボールダンス、子供たちのバレーとコーラスなど、素人たちが演じることをきままに楽しんでいるさまは、港祭りということもあって、まるで博多どんたくだ。
ジャズや戦前の歌謡曲を駆使し、掛け合いも自然で素晴しいミュージカル時代劇『鴛鴦歌合戦』。ヘタだからこそ味のあるナンバーが楽しい、ウディ・アレン『世界中がアイラブユー』などと通ずるところがある。
ダンスに関して、アメリカ映画のようなプロらしいステップを踏んでいるのは、ジョージ・チャキリス(キャラバンのボス)とクローバー・デール(技術者)の二人組、それぞれの彼女(インド舞踊と中国舞踊の名手らしい)、ジーン・ケリー(作曲家)の5人だけ。
オープニング、水兵や乳母車の人妻たちも、変なワンパターンの踊りで、バレースクールの先生役のカトリーヌ・ドヌーブは、いっさいプロの踊りを見せない。
ヒロインの双子、20代前半にしては化粧の濃いこと! お姉ちゃんのドルレアックの方が、芝居が断然上手い。ジーン・ケリーと出会ってドギマギしたり、再会してうっとりする芝居の大仰さが素晴しく面白い。双子姉妹の歌など、時々小津映画のように画面に向かって歌う。観客サービスなのだろうか。これも、なんでもありのこの作品の面白さだ。
一番かわいいのは、カフェの女給(店員だね)ジョゼット。
まるで少女マンガから抜け出したような、プロンドでセーラー服のジャック・ペラン。欠点は猫背。兵舎を抜け出して油絵を描く水兵という設定。むっつりした兵隊たちと行進しながら、一人ニコニコ歌うペラン。ここを真剣に観てしまうのは、やはりこの傑作の魔法にかかっているからでしょう。
ジャック・ペラン。60年代からフランスやイタリア映画に出ているこの二枚目は、1969年ポリティカルミステリーの傑作『Z』をプロデュースしたばかりか、アカデミー外国語映画賞をとり世間を驚かす。当時28歳、天は二物を与えた。その後もコスタ・ガブラスの渋い『戒厳令』などを製作し、77年『ブラック・ホワイト・イン・カラー』で再びオスカー受賞。2004年には『コーラス』がオスカー候補になる。主演の子役が実の息子で8歳、ペラン55歳の時の子供。しかも名前がマクサンス!(『ロシュフォール』のペランの役名)
ジーン・ケリーとジョージ・チャキリスがフランス語の吹替えを承諾したのも凄い。ただし、この作品、英語版が存在しておりレコードも出ている。そちらでは二人は逆に自分の声で歌っているはずで、英語版を観ているが記憶にない。このバージョン、ジャック・ドミーはフランス語の歌詞をそのまま訳したのではなく、英語でオリジナルと異なる台詞と歌詞を書いたものの、オリジナルのファンから非難を浴び、英語版を封印したと聞いた。アニェス・バルダが生きている間は、公開を許さないでしょう。
オリジナルで自分の声で歌っているのは、双子のお母さん、ダニエル・ダリューただ一人。
ダニエル・ダリュー。1917年生まれ、現在91歳。デビューが30年代で現役なのが凄い。同い年のわが山田五十鈴は、もう引退していますからね。美しいがバカっぽく見えることで、白痴美人なんて、今考えるとヒドいいわれようをされた。大ヒット曲『ラストダンスは私に』を歌ったシャンソン歌手でもある。本作でも、ベテラン歌手の貫禄で、じつに気持ち良さそうに歌っている。
最近のコメント